外資ファンド「SENJIN CAPITAL」が静かに握る5.12%

イワブチを巡る影の圧力

沈黙の5%を跨いだ外資

2025年9月12日、関東財務局に提出された大量保有報告書によれば、オーストラリア法人 SENJIN CAPITAL PTY LTD とその代表ジェームス・ハルス氏が、イワブチ株式会社(5983)の株式を合計 5.12% 保有していることが判明した。

形式上は「純投資」とされるが、注記には「状況に応じて重要提案行為を行う可能性」が付されている。

数字としてはわずか5%だが、この一文が意味する含意は小さくない。

変貌するイワブチと外資の視線

イワブチは、送電・通信インフラ用金具の製造を担う老舗メーカーだ。

防災需要や再生可能エネルギー投資の拡大を背景に、同社の地味な部材は社会インフラを支える生命線となっている。

こうした企業に対して、海外の新興ファンドが市場で少しずつ株式を拾い、沈黙のうちに議決権比率を積み上げてきた──。

その構図は、偶然ではなく必然に近い。

数字が物語る「静かな積み上げ」

報告書によると、SENJIN CAPITAL(法人名義)が 44,800株(4.07%)、ジェームス・ハルス個人名義で 11,500株(1.05%) を保有し、合算で5%を超えた

この過程は特徴的だ。2025年7月から9月にかけて、100株単位から3,000株超まで、小口の市場内取引を連日のように積み上げ、最終的に2,200株(9月5日)の取得で5%を突破している。

マーケットインパクトを避けながら、じわじわとポジションを固めていく──典型的な外資ファンドの戦略が透ける。

顧客資産を用いた取得スキーム

取得資金の多くは「投資一任契約に基づく顧客資産」で賄われている点も見逃せない。

  • 法人名義:315,399千円(全額が投資一任契約資産)
  • 個人名義:79,533千円(うち22,844千円が投資一任契約資産、自己資金は56,689千円)

つまり、ファンド自身のリスクマネーは限定的。外資が日本市場に参入する際にしばしば見られる「顧客資産を用いた代理投資」の典型例といえる。

純投資か、アクティビストか

「純投資」としながら「提案行為の可能性」を残す──これはアクティビストファンドの常套句だ。

現時点では静観しているが、資本効率改善や配当方針の見直しといった要求に転じる余地は十分にある。

特に、イワブチのような安定企業は「割安資産」と見なされやすく、外圧を通じた短期的な株主利益追求の対象となりやすい。

制度の隙間を突く「5%超」

今回の事例は、日本の大量保有報告制度の甘さも浮き彫りにした。

  • 法人+個人の合算 でちょうど5%を跨ぐ構造

  • 投資一任契約による資金動員で、実質リスクの所在は不透明

  • 「重要提案行為の可能性あり」という曖昧な記載

制度的には合法だが、実質的には外資が規律の緩い枠組みを利用して影響力を浸透させる構造が見える。

見えざる支配の始まりか

イワブチ株式の5.12%──数字としては控えめだが、これは 「影響力を持つための閾値」 を超えたサインでもある。

静かに積み上げられた持分は、将来の株主提案やガバナンス要求のカードとなり得る。

「純投資」と「アクティビスト」の境界線を曖昧にしたまま、日本市場の制度的盲点を突く外資ファンド。

その動きは、今後の株主総会や経営判断の現場において、確実に重い影を落とすことになるだろう。

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