
米系ハイブリッドファンドの“静かな支配”
報告書が示す事実
2025年10月27日、Evo Fund(ケイマン諸島法人)および関連運用会社Evolution Capital Management LLC(米国法人)が、モブキャストホールディングス株式会社(3664)株式の24.34%を共同で保有していることが明らかになった。
報告義務発生日は10月20日。
報告書によると、Evo Fund単独の保有比率は31.53%に達しており、そのうち25,000,000株は新株予約権(第36回および第37回)**による潜在株式として保有されている。
つまり、実質的には3分の1超の支配的ポジションを確保していることになる。
ファンドの正体
Evo FundとEvolution Capital
Evo Fundは2006年12月に設立されたケイマン籍投資法人。
代表者はリチャード・チゾム氏で、米国の資産運用会社Evolution Capital Management LLC(2002年設立、ネバダ州本拠)と密接に連携している。
両社は、アジア圏の新興市場・テクノロジー銘柄を中心に投資を行うイベントドリブン型ハイブリッドファンドとして知られ、
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新株予約権や転換社債(CB)を通じたハイブリッド・ファイナンス
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市場流動性を活かした短期~中期の資本戦略
を得意とする。
日本では過去に複数の新興市場企業(主にゲーム・バイオ・AI関連)に対して、第三者割当を通じた資金供給を実施しており、その手法はしばしば「金融再建型のアクティビズム」と呼ばれてきた。
取引の構造と背景
報告書によれば、Evo Fundは10月20日付でモブキャストHDと「第36回・第37回新株予約権の買取契約」を締結。
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第36回新株予約権:20,000,000株(発行価額0.02円)
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第37回新株予約権:5,000,000株(発行価額0.08円)
の合計25,000,000株分を市場外で取得している。
さらに、同日には市場外で普通株式4,520,800株(5.34%)を借株として取得し、翌日以降の市場内取引で一部を処分するなど、株式+ワラント+借株の三層構造による極めて流動的な資本設計を取っている。
報告書(4ページ)では、藪考樹氏・BNPパリバ・ステートストリート銀行・Jefferies LLCなどからの借株合計約4,870,800株が明示されており、Evo Fundの投資スキームが短期ヘッジポジションを併用した“バランス型ハイブリッド投資”であることがうかがえる。
保有目的と契約条項の特徴
Evo Fundの保有目的は「純投資であり、状況に応じて経営陣に助言を行う場合がある」と記されている。
だが、報告書末尾に記載された契約内容を精査すると、その柔らかい表現の裏に企業支配を前提とした強固な契約設計が見える。
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新株予約権(第36回・第37回)は発行者(モブキャストHD)の取締役会承認がないと譲渡不可
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発行者が指定した発行上限を超過する行使をEvo側が制限される「行使制限条項」
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契約上の特定条件が発生した場合、Evo側に買戻し要求権を付与
これらの条項は、表向きはガバナンス確保の仕組みだが、実際には**企業側の資金繰りとEvo側の権利行使タイミングを綿密に制御する“仕組まれた共同設計”**である。
モブキャストHDの現状とEvoの狙い
モブキャストホールディングスは、モバイルゲーム事業を軸にスタートしたIT企業。
しかし、近年は赤字続きで、スポーツ・エンタメ・ブロックチェーン分野への事業転換を進めている。
その中でEvo Fundが登場したのは、資金繰りの急場を凌ぐ「最後のパートナー」としての役割を果たすためだ。
Evoが保有する25,000,000株の新株予約権をすべて行使すれば、持株比率は40%前後に跳ね上がる可能性があり、実質的には経営支配・再建介入型投資の様相を呈している。
視点と論点
ハイブリッドファンドの“再建型アクティビズム”
Evo Fundは単なる短期投機家ではなく、財務再生を金融工学で支援する「構造的投資家」。
モブキャストHDへの関与は、資金調達と経営再生をセットで請け負う新時代の投資形態といえる。
潜在株による“支配権の可視化なき支配”
31.53%の持株比率の大半が潜在株式(ワラント)で構成されるため、
市場では支配の実態が見えにくいが、行使のタイミング次第で支配構造が一瞬で変わる。
新興市場における「金融主導の再建モデル」
銀行やVCが撤退した後、こうした外資ハイブリッドファンドが企業の最後の資金供給者となっている。
それは、日本のスタートアップ・新興企業が抱える構造的資本問題を映し出す。
“再建資本”の光と影
Evo Fundによるモブキャストホールディングス株24.34%保有は、単なる投資ではなく、金融資本が経営の座に踏み込む構造転換の象徴である。
この資本は企業を救うのか、それとも支配するのか。
Evoの背後にあるのは、リスクと収益を数式で制御する冷徹な金融技術であり、それを受け入れる企業側にも「数字で経営を再生する覚悟」が問われている。
日本の新興市場で、再び“資本の温度”が上がり始めている。
