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論評RONPYOIndependent Research
OPEN FILE決算分析論評編集部公開 2026.05.11更新 2026.06.13

積水ハウス 第75期、売上4.2兆円・純利益2,321億円で6期連続最高益

【結論】積水ハウス第75期は6期連続最高益を記録したが、その実態は「国内開発型ビジネスの利益急増が米国事業の半減益を補填した」構造転換の年であり、利益の質と持続性を問う局面に入ったと見るのが自然だ。

売上高
4兆1,979億円
前期比 +3.4%
営業利益
3,414億円
前期比 +3.0%
親会社帰属純利益
2,321億円
前期比 +6.6%
1株当たり純利益
358.07円
前期比 +6.6%

出典:積水ハウス株式会社 第75期有価証券報告書(2026年4月16日提出)、事業年度2025年2月1日〜2026年1月31日

第1章

3期推移:6期連続最高益の構造

第75期は第6次中期経営計画(2023〜2025年度)の最終年度として、売上高・利益ともに最高益を更新した。営業利益率は8.1%と前期の8.2%から0.1ポイント低下したが、経常利益の伸び(+8.7%)が営業利益の伸び(+3.0%)を大幅に上回ったのは、持分法投資利益の計上(特定目的会社保有不動産の引渡し完了による)が寄与したためである。純利益の伸び(+6.6%)が経常利益の伸びを下回ったのは、政策保有株式売却益が前期から118億99百万円減少した影響を、M.D.C. Holdings買収関連費用の反動減(88億78百万円の特別損失減)が一部相殺したためである。会社側が2025年9月に上方修正した業績目標(売上高4兆3,100億円・営業利益3,400億円)に対し、営業利益はわずかに超過した一方、売上高は目標を1,331億円下回った。目標差異の主因は米国戸建住宅事業の需要鈍化と棚卸資産評価損の計上であり、国内事業は計画以上の進捗を見せた。

項目 第74期(百万円) 第75期(百万円) 増減額 増減率
売上高 4,058,583 4,197,922 +139,339 +3.4%
営業利益 331,366 341,402 +10,036 +3.0%
営業利益率 8.2% 8.1% ▲0.1pt
経常利益 301,627 327,800 +26,172 +8.7%
親会社帰属純利益 217,705 232,095 +14,390 +6.6%
1株当たり純利益(円) 335.95 358.07 +22.12 +6.6%
ROE 11.71% 11.32% ▲0.39pt
自己資本比率 40.80% 42.73% +1.93pt
1株当たり配当(円) 135.00 144.00 +9.00 +6.7%

出典:積水ハウス株式会社 第75期有価証券報告書(2026年4月16日提出)

第2章

セグメント:ビジネスモデル別の損益構造

積水ハウスのビジネスモデルは「請負型」「ストック型」「開発型」の3類型に整理できる。第75期の最大の特徴は、開発型ビジネス(仲介・不動産・マンション・都市再開発)の営業利益が949億70百万円(前期比+35.1%増)と突出した伸びを示し、請負型やストック型の成長を大きく凌駕した点にある。都市再開発事業の営業利益は前期比42.5%増、マンション事業は武蔵小杉・福岡中央区などの大型物件引渡しが計画通り進み23.3%増益となった。この開発型ビジネスの利益急増が、国際事業(米国)の大幅減益との綱引きを吸収する役割を果たした構図が第75期の骨格である。

セグメント 売上高 売上高増減率 営業利益 営業利益増減率
戸建住宅事業(請負型) 7,790億円 ▲0.0% 480億円 +4.3%
賃貸・事業用建物事業(請負型) 7,648億円 +3.6% 478億円 +7.4%
建築・土木事業(請負型・池絡み) 1,023億円 ▲7.0% 20億円 +44.9%
賃貸住宅管理事業(ストック型) 5,126億円 +3.7% 290億円 +21.5%
開発事業(都市再開発・マンション・仲介) 5,820億円 +17.1% 950億円 +35.1%
国際事業(米国・豪州) 1兆4,864億円 +0.6% 191億円 ▲50.5%

出典:積水ハウス株式会社 第75期有価証券報告書(2026年4月16日提出)セグメント情報より

戸建住宅事業
売上微減ながら利益率が改善。「子育てグリーン住宅支援事業」の後押しで受注は堅調。ZEH比率96%と過去最高を更新。ファミリースイート採用率70%超など高付加価値提案が浸透。
賃貸・事業用建物事業
S・Aエリア戦略と「シャーメゾンZEH」(ZEH住戸割合47%)が好調を維持。ERE・PRE(法人・公共)需要も堅調。受注残6,078億円(+7.8%)と積み上がり。
建築・土木事業
売上は減収も、資材価格転嫁の進捗と大型官庁工事の採算改善で利益率が劇的改善(1.5%→3.3%)。受注残1,170億円。
賃貸住宅管理事業
シャーメゾンPMとしての賃貸専門体制が整備され管理委託戸数増加。空室期間短縮・リレント時賃料引き上げが奏功。積水ハウス・リートを通じた安定収益の可視化が進む。
開発事業
都市再開発が大型物件売却超過と持分法利益で利益42.5%増。マンションが武蔵小杉・福岡の引渡し計画通り進捗で23.3%増。仲介・不動産も1社統合効果で10.8%増収。
国際事業
M.D.C. Holdingsが当期初より通期貢献も、米国の顧客様子見姿勢によるインセンティブ増加と棚卸資産評価損が利益を大幅圧迫。米国ROIC▲10.4%(目標7%)と大きく乖離。豪州は引渡し堅調。

出典:積水ハウス株式会社 第75期有価証券報告書(2026年4月16日提出)セグメント情報より

第3章

利益の質:経常・純利益の乖離と特別損益

第75期の利益構造では、各利益段階の伸び率に顕著な乖離が生じている。経常利益の伸び(+8.7%)が営業利益の伸び(+3.0%)を大きく上回った主因は、持分法投資利益の計上(特定目的会社保有不動産の引渡し完了)にある。この持分法利益は物件売却のタイミングに依存する一時的な性格を含む点に留意が必要である。一方、純利益の伸び(+6.6%)が経常利益の伸び(+8.7%)を下回った背景には、政策保有株式売却益の前期比減少(118億99百万円減)がある。段階的な政策保有株削減方針のもと、この収益源は構造的に縮小方向にある。M.D.C. Holdings買収関連費用の反動減(88億78百万円の特別損失減)が一部相殺したものの、特別利益依存度の変化は利益の質を評価するうえで継続的な確認項目となる。

持分法投資利益(経常利益押し上げ要因)
特定目的会社保有不動産の引渡し完了による計上。物件売却タイミング依存の一時的性格を含む。
政策保有株式売却益
前期比▲118億99百万円。段階的削減方針のもと構造的縮小方向にある。
M.D.C. Holdings買収関連費用
前期計上の特別損失が今期は反動減(88億78百万円減)となり純利益を下支え。

出典:積水ハウス株式会社 第75期有価証券報告書(2026年4月16日提出)損益計算書および注記より

第4章

キャッシュフローとの整合性

キャッシュフローの構造は前期から劇的に変化した。前期はM.D.C. Holdings買収(約1兆円規模)に伴う投資CFの大幅流出と財務CF(借入等)の大幅流入という非常時の構造だったが、今期はフリーCF+1,432億円という正常化した姿に戻っている。営業CFが2,163億円と前期の約4倍に膨らんだのは、税金等調整前純利益3,387億円の計上に加え、前期に嵩んだ棚卸資産増加の反動が生じたためである。投資CFの流出が▲732億円(前期▲6,977億円)と急減したのも、大型買収が一巡した結果である。財務CFは▲933億円となったが、これは主に配当金支払272億円(前期比+47億円増)によるものであり、借入の大規模な返済ではない。

CF区分 第74期(百万円) 第75期(百万円) 増減
営業活動によるCF 62,885 216,325 +153,440
投資活動によるCF △697,687 △73,172 +624,514
財務活動によるCF 720,967 △93,255 ▲814,222
フリーCF(営業+投資) ▲634,802 +143,153 +777,955
期末現金残高 390,307 434,925 +44,618

出典:積水ハウス株式会社 第75期有価証券報告書(2026年4月16日提出)キャッシュ・フロー計算書より

第5章

運転資本と資産の質

総資産が4兆1,660億円規模に拡大するなか、流動資産は前期比+3.3%増となった。売上高増加(+3.4%)との乖離は限定的であり、売上債権の膨張という兆候は現時点では確認されない。一方、棚卸資産(販売用不動産)の動向は注視を要する。国際事業では棚卸資産評価損が計上され利益を圧迫した。国内では販売用不動産が増加(流動資産増加の主因)しており、開発型ビジネスの拡大に伴う在庫リスクの観点から継続的な確認が必要である。

流動資産増加率
前期比+3.3%増(売上高増加率+3.4%と概ね連動)
棚卸資産(国際事業)
米国M.D.C. Holdings買収後の棚卸資産拡大が前期CFを圧迫。今期は反動で営業CF大幅回復。評価損計上により国際事業利益を圧迫。
棚卸資産(国内)
販売用不動産が増加。開発型ビジネス拡大に伴う在庫水準の変化として継続監視が必要。

出典:積水ハウス株式会社 第75期有価証券報告書(2026年4月16日提出)貸借対照表および注記より

第6章

財務と負債:米国借入コベナンツの構造

自己資本比率は42.73%(前期40.80%から+1.93ポイント改善)と財務基盤は強化方向にある。ROEは11.32%と前期(11.71%)からわずかに低下した。注目すべき財務上のリスクは米国借入子会社NASH FINANCING, LLCにある。同社の借入残高は5,369億80百万円に上り、「純資産ゼロ未満不可」「2期連続純損失不可」という財務制限条項(コベナンツ)が設定されている。現状では同社の純資産はプラスを維持していると解釈されるが、米国住宅市場の回復が遅延し評価損計上が続いた場合、コベナンツへの抵触リスクが生じる可能性がある。この点は有価証券報告書に正式記載された公開リスクである。また、米国M.D.C. Holdings買収資金のパーマネント化(2025年2月完了)により、借入構造は中長期的な性格を帯びている。

自己資本比率
42.73%(前期比+1.93pt改善)
ROE
11.32%(前期比▲0.39pt低下)
NASH FINANCING, LLC借入残高
5,369億80百万円
財務制限条項(コベナンツ)
純資産ゼロ未満不可・2期連続純損失不可。有価証券報告書に公開リスクとして記載。
借入パーマネント化
2025年2月完了。買収資金が中長期借入として固定化。

出典:積水ハウス株式会社 第75期有価証券報告書(2026年4月16日提出)財務諸表注記・リスク情報より

第7章

論点の整理

第75期の構造を整理すると、以下の3つの論点が浮かび上がる。

論点① 開発型利益の持続性
都市再開発事業が前期比42.5%増益という突出した結果を示したことは、東京・名古屋・大阪・福岡の中心部を中心に展開するプライスリーダー戦略の成果を示す。しかし物件売却のタイミングと持分法投資利益に依存する一時的な性格も含む。大型物件パイプラインの厚みが第7次中期経営計画(2026〜2028年度)期間中も維持されるかどうかが問われる。
論点② 米国事業の正常化シナリオ
M.D.C. Holdingsは当期初より通期貢献したにもかかわらず、国際事業の営業利益は前期比▲50.5%と半減した。米国ROIC▲10.4%(目標7%)との乖離は大きく、住宅ローン金利の動向・通商政策の不透明感・棚卸資産評価損の計上継続リスクが収益正常化の前提条件となる。SEKISUI HOUSE U.S., Inc.としての統合完了後の収益フェーズへの移行速度が第7次計画の成否を左右する。
論点③ 財務コベナンツと米国借入リスク
5,370億円規模の米国借入(NASH FINANCING, LLC)に設定された「純資産ゼロ未満不可・2期連続純損失不可」というコベナンツは、米国事業が評価損計上を複数期にわたり継続した場合の財務的な境界線として機能する。政策保有株式の売却益縮小と組み合わさると、グループの特別利益による損失吸収余力も細る方向にある。このリスクは過度な懸念なく、しかし継続的に注視することが適切と見るのが自然だ。

出典:積水ハウス株式会社 第75期有価証券報告書(2026年4月16日提出)および第7次中期経営計画(2026年3月発表)

論点 → 質問状

この決算の構造を、どう読むか

開発型ビジネスの利益急増と米国事業の半減益という綱引き構造が次期以降も継続するか。第7次中期経営計画の進捗・米国棚卸資産評価損の動向・コベナンツ抵触リスクの変化を継続して記録する。国内開発型パイプラインの変化があれば、企業価値評価の前提が変わる。

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