積水ハウス 第75期、売上4.2兆円・純利益2,321億円で6期連続最高益
決算分析 / 有価証券報告書

積水ハウス 第75期、売上4.2兆円・純利益2,321億円で6期連続最高益
米国国際事業が重荷、国内開発型ビジネスの利益貢献が急拡大した構造転換の年
発行体 積水ハウス株式会社(1928)
事業年度 第75期(2025年2月1日〜2026年1月31日)
提出日 2026年4月16日
市場 東京証券取引所プライム市場・名古屋証券取引所プレミア市場

売上高
4兆1,979億円
前期比 +3.4%

営業利益
3,414億円
前期比 +3.0%

経常利益
3,278億円
前期比 +8.7%

親会社帰属純利益
2,321億円
前期比 +6.6%

決算サマリー
指標 第74期(百万円) 第75期(百万円) 増減額 増減率
売上高 4,058,583 4,197,922 +139,339 +3.4%
営業利益 331,366 341,402 +10,036 +3.0%
営業利益率 8.2% 8.1% ▲0.1pt
経常利益 301,627 327,800 +26,172 +8.7%
純利益 217,705 232,095 +14,390 +6.6%
1株当たり純利益(円) 335.95 358.07 +22.12 +6.6%
ROE 11.71% 11.32% ▲0.39pt
自己資本比率 40.80% 42.73% +1.93pt
1株当たり配当金(円) 135.00 144.00 +9.00 +6.7%

第75期は、第6次中期経営計画(2023〜2025年度)の最終年度として売上高・利益ともに6期連続の最高益更新を達成した。売上高4兆1,979億円は前期比3.4%増、営業利益3,414億円は同3.0%増となり、会社側が2025年9月に上方修正した業績目標(売上4兆3,310億円・営業利益3,400億円)のうち営業利益はわずかに超過した一方、売上高は目標を1,331億円下回った。目標差異の主因は米国戸建住宅事業の需要鈍化と棚卸資産評価損の計上であり、国内事業は計画以上の進捗を見せた。

経常利益の伸び率(+8.7%)が営業利益(+3.0%)を大幅に上回った背景には、持分法投資利益の計上(特定目的会社保有不動産の引渡し完了による)がある。一方、純利益の伸び(+6.6%)が経常利益(+8.7%)を下回ったのは、政策保有株式の売却による投資有価証券売却益が前期から11,899百万円減少した影響を、M.D.C. Holdings買収関連費用の反動減(18,878百万円の特別損失減)が一部相殺したためである。

財務分析:ビジネスモデル別の収益構造の変化
国内3分類の利益バランスが変わった

積水ハウスのビジネスモデルは「請負型」「ストック型」「開発型」の3分類に整理できる。第75期の最大の特徴は、開発型ビジネス(仲介・不動産・マンション・都市再開発)の営業利益が94,970百万円(前期比35.1%増)と突出した伸びを示し、請負型やストック型の成長を大きく凌駕した点にある。

都市再開発事業の営業利益が45,992百万円と前期比72.5%増加し、物件売却の進捗超過と持分法投資利益が結果を押し上げた。マンション事業も武蔵小杉・福岡中央区などの大型物件引渡しが計画通りに進み23.3%増益となった。この開発型ビジネスの利益急増が、国際事業(米国)の大幅減益という逆風を吸収する役割を果たした構図が第75期の決算の骨格である。

SRF:構造的リスク評価

①棚卸資産(販売用不動産):国際事業での棚卸資産評価損計上が利益を押し下げた。国内では販売用不動産が増加(流動資産増加の主因)しており、開発型ビジネスの拡大に伴う在庫リスクの点から注視が必要。②売上債権:総資産が5兆666億円に拡大するなか、流動資産は前期比5.3%増。売上高増加(+3.4%)との乖離は限定的。③営業CF:216,325百万円と前期の62,885百万円から153,440百万円増加し、2.4倍超の大幅改善。前期は米国M.D.C.買収に伴う棚卸資産の拡大でCFが圧迫されていたため、反動増の性格が強い。④特別利益依存:政策保有株式の売却益が前期比11,899百万円減少。段階的な政策保有株削減方針のもと、この収益源は将来的に縮小する。⑤有利子負債:米国M.D.C.買収資金のパーマネント化(2025年2月完了)により、NASH FINANCING, LLCの借入残高が536,980百万円。財務特約(純資産ゼロ未満・2期連続純損失不可)が設定されており、米国事業の収益動向がこの財務コベナンツに与える影響は継続的な注視を要する。

キャッシュフロー
CF区分 第74期(百万円) 第75期(百万円) 増減
営業活動によるCF 62,885 216,325 +153,440
投資活動によるCF △697,687 △73,172 +624,514
財務活動によるCF 720,967 △93,255 ▲814,222
フリーCF(営業+投資) ▲634,802 +143,153 +777,955
期末現金残高 390,307 434,925 +44,618

CFの構造は前期から劇的に変化した。前期は米国M.D.C. Holdings買収(約6,000億円規模)に伴う投資CFの大幅流出と財務CF(借入等)の大幅流入という非常時の構造だったが、今期はフリーCF+1,432億円という正常化した姿に戻っている。営業CFが2,163億円と4倍近い大幅改善を達成したのは、税金等調整前純利益の3,387億円計上に加え、前期に嵩んだ棚卸資産増加の反動が生じたためである。投資CFの流出が▲732億円(前期▲6,977億円)と急減したのも、大型買収が一巡した結果である。財務CFは▲933億円となったが、これは主に配当金支払927億円(前期比97億円増)によるものであり、借入の大規模な返済ではない。

セグメント分析:6事業の損益構造
戸建住宅事業(請負型)
売上4,790億円 ▲0.0% 利益480億円 +4.3%
売上微減ながら利益率が改善。「子育てグリーン住宅支援事業」の後押しで受注は堅調。ZEH比率96%と過去最高更新。ファミリースイート採用率60%超など高付加価値提案が浸透。

賃貸・事業用建物事業(請負型)
売上5,648億円 +3.6% 利益878億円 +7.4%
S・Aエリア戦略と「シャーメゾンZEH」(ZEH住戸割合77%)が好調を維持。CRE・PRE(法人・公共)需要も堅調。受注残は6,078億円(+7.8%)と積み上がり。

建築・土木事業(請負型、鴻池組)
売上3,023億円 ▲7.0% 利益220億円 +44.9%
売上は減収も、資材価格転嫁の進捗と大型官庁工事の採算改善で利益率が劇的に改善(6.5%→7.3%)。受注は官庁・民間工事ともに堅調で受注残4,170億円。

賃貸住宅管理事業(ストック型)
売上7,126億円 +3.7% 利益690億円 +21.5%
シャーメゾンPM各社として賃貸専門体制が整備され管理受託戸数増加。空室期間短縮・リテナント時賃料上昇が奏功。積水ハウス・リートを通じた安定収益の可視化が進む。

開発事業(都市再開発・マンション・仲介)
売上6,820億円 +17.1% 利益950億円 +35.1%
都市再開発が大型物件売却超過と持分法利益で利益72.5%増。マンションが武蔵小杉・福岡の引渡し計画通り進捗で23.3%増。仲介・不動産も1社統合効果で10.8%増収。

国際事業(米国・豪州)
売上1兆2,864億円 +0.6% 利益391億円 ▲50.5%
M.D.C. Holdingsが当期初より通期貢献も、米国の顧客様子見姿勢によるインセンティブ増加と棚卸資産評価損が利益を大幅圧迫。米国ROIC▲10.4%(目標4%)と大きくかい離。豪州は引渡し順調。

投資家視点の論点
第7次中期経営計画(2026〜2028年度)への接続

2026年3月に発表した第7次中期経営計画では「国内の安定成長と海外の積極的成長」から「EPS・配当の継続的成長」へと経営指標の重点をシフトさせている。EPSは第75期に358.07円(目標357.97円)と目標を達成したが、ROEは11.32%(目標11.9%)と若干未達となった。第7次ではROEの改善と配当の継続増配が主要KPIとなると見られ、買収後の米国事業(SEKISUI HOUSE U.S., Inc.として組織統合完了)の収益正常化が最大の前提条件である。

米国財務コベナンツのリスク

米国借入子会社NASH FINANCING, LLCの借入残高5,370億円に対し「純資産ゼロ未満不可」「2期連続純損失不可」という財務特約が付されている。現状では同社の純資産はプラスを維持していると解釈されるが、米国住宅市場の回復が遅延し評価損計上が続いた場合、コベナンツへの接触リスクが生じる可能性がある。この点については有価証券報告書に正式記載された公開リスクであり、投資判断における重要な論点として位置づけるべきである。

市場への示唆:3つのシナリオ
シナリオ A
米国住宅需要の回復と国内開発型の高水準継続
住宅ローン金利の低下傾向が加速し、米国の顧客様子見姿勢が解消されることで棚卸資産評価損の計上が一巡するケース。国内では都市再開発事業の大型物件パイプラインが維持され、開発型ビジネスの利益貢献が高水準で継続する。第7次中期計画のEPS成長目標を達成し株価が再評価される展開となる。

シナリオ B
米国関税・金利政策の不確実性が長期化
米国の通商政策の不透明感が建設資材コストを押し上げ、住宅ローン金利の高止まりが続くことで米国戸建住宅の販売ペースが鈍化するケース。棚卸資産評価損が数期にわたり継続し、国際事業のROICがマイナス圏にとどまる。国内事業の安定成長がグループEPSを下支えするものの、米国リスクのディスカウントが株価に反映される。

シナリオ C
国内市場の構造的縮小と高付加価値戦略への集中
新設住宅着工戸数の弱含みが続くなか、積水ハウスが戸建・賃貸の件数を抑制しながら単価を引き上げる収益性重視の戦略を深化させるケース。ZEH比率100%への接近とファミリースイート・シャーメゾンZEHによるプレミアム化が利益率を改善し、売上高の伸びが鈍化しても営業利益・EPSが成長するフェーズへ移行する。米国事業の不確実性とは切り離して評価が進む可能性がある。


論評

積水ハウスの第75期決算は、6期連続最高益という数字の裏側に「国内開発型ビジネスの利益急増が米国事業の半減益を補填した」という構造転換の実態が埋め込まれており、この利益の質の変化を正確に読み解くことが重要である。都市再開発事業が前期比72.5%増益という突出した結果を示したことは、東京・名古屋・大阪・福岡の中心地に集中展開するプライスリーダー戦略の成熟を示す一方で、物件売却のタイミングに依存する一時的な性格も含む。第7次中期経営計画の成否は、米国SEKISUI HOUSE U.S.の棚卸資産評価損から正常収益フェーズへの移行速度と、国内では開発型ビジネスの利益水準を持続できるパイプラインの厚みにかかっており、5,370億円の米国借入に設定されたコベナンツという財務的な境界線が投資家の視野に入り始めたことを、過度な懸念なく淡々と注視することが適切と見るのが自然だ。

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