
――香港系バリュー投資家が海運中堅に差し込む静かな視線
2026年2月20日、関東財務局に提出された大量保有報告書(特例対象株券等)により、香港を拠点とする資産運用会社 LIM Advisors Limited が、乾汽船株式会社 の株式を 5.44% 保有していることが明らかになった。
一見すれば、海外投資家による典型的な5%超保有に見える。
しかし、LIM Advisorsという取得主体の過去の投資スタンス、そして海運市況の循環性を踏まえると、本件は単なる受動的投資ではなく、資産価値と市況の歪みを捉えた構造的ポジション形成と見るのが自然だ。
大量保有報告書の事実整理
まず、事実関係を整理する。
-
提出日:2026年2月20日
-
報告義務発生日:2026年2月13日
-
提出者:LIM Advisors Limited
-
発行体:乾汽船株式会社
-
発行済株式総数(2025年11月12日現在):26,072,960株
-
保有株数:1,419,200株
-
保有割合:5.44%
-
保有目的:純投資
-
新株予約権等の保有:なし
-
担保契約等重要な契約:該当なし
報告書3頁には、保有株券等の数 1,419,200株、株券等保有割合 5.44% と明記されている。
取得形態は通常の株式保有であり、転換社債や新株予約権等の潜在株式は含まれていない。
LIM Advisorsの立ち位置
問題は「誰が買ったか」である。
LIM Advisors Limitedは1995年設立の香港系資産運用会社で、アジア株式、とりわけ資産価値やバリュー性に着目する投資スタイルで知られる。
その特徴は、
-
市況循環や企業の純資産価値に着目
-
割安放置銘柄への中期的投資
-
原則としてアクティビズムには踏み込まない
という点にある。
保有目的も「純投資」と明記されており、経営介入や重要提案行為の示唆はない。
しかし、バリュー型運用会社が5%超まで積み上げる銘柄には、必ず構造的理由がある。
なぜ乾汽船なのか
次に問われるのは、「なぜこの会社なのか」である。
乾汽船は、
-
外航海運を主軸とする中堅海運会社
-
市況に大きく左右される収益構造
-
船舶資産という有形資産を保有
という特徴を持つ。
海運業は典型的な市況循環型ビジネスであり、
-
市況悪化時には株価が大きく売られ
-
市況回復局面では急速に再評価される
という構造を持つ。
乾汽船も例外ではなく、業績変動と株価変動の振れ幅が大きい銘柄である。
これは、資産価値と市場評価の乖離を捉えるバリュー投資家にとって魅力的な構図だ。
5.44%という取得比率の意味
5.44%という数字は偶然ではない。
-
大量保有報告書の提出義務が生じるライン
-
経営陣にとって無視できない水準
-
しかし支配や対立を示唆しない範囲
この水準は、長期バリュー投資家が「評価の回復を待つ」ために取る典型的なポジションサイズと見ることができる。
10%を超えれば市場に強いシグナルを与えるが、5%台に留めることで、市場歪みの修正を静かに待つ姿勢が見て取れる。
市場・経営陣へのメッセージ
本件はアクティビズムではない。
しかし、5%超の大量保有は、市場に対して明確なメッセージとなる。
それは、
-
海運市況の底打ち可能性
-
保有船舶資産の評価余地
-
企業価値が現在の株価に十分反映されていない可能性
といった点への注目である。
経営陣に対する直接的圧力はない。
しかし、「国際資本が静かにポジションを取っている」という事実は、資本市場との対話の重要性を改めて浮き彫りにする。企業・資本構造の将来余地
乾汽船には、いくつかの将来余地が存在する。
-
海運市況回復時の利益レバレッジ
-
船舶資産の評価再計算
-
財務余力の活用
重要なのは、LIM Advisorsが市況のピークではなく、評価が落ち着いた段階で入っている可能性が高い点である。
これは、短期トレンドではなく、循環の反転を見据えた保有と解釈するのが自然だ。
今後想定されるシナリオ
現時点で断定はできないが、以下の展開が想定される。
-
市況回復局面での評価修正
-
長期保有の継続
-
一定水準での利益確定
少なくとも本件は、「何も起きない大量保有」ではない。
それは、「市況循環を見据えたバリュー投資型大量保有」である。
論評
本件は、乾汽船一社の問題ではない。
それは、海運セクター全体が、
-
市況変動
-
資産価値
-
株価の過度な反応
という三層構造の中で評価されている現実を映す。
LIM Advisorsの 5.44% は、経営権を巡る数字ではない。
それは、「今の株価は、資産と市況のバランスを正確に映しているか」という問いである。
海運は常に循環する。
資本は、その循環の歪みを見逃さない。
