
市場内外二段階取得と重要提案留保、英国系ソフト・アクティビストの精緻な手法
本報告書は金融商品取引法第27条の23第1項に基づき、2026年4月28日に関東財務局長へ提出された。報告義務発生日は2026年4月20日であり、義務発生から8日以内の適正提出となる。提出代理人はサウスゲイト法律事務所・外国法共同事業(東京都港区赤坂、パークサイドシックス305)の弁護士・飯谷武士が務め、事務連絡担当者は同事務所の川城瑛弁護士である。大量保有者の実体はZennor Asset Management LLP(ゼナー・アセット・マネジメント、以下ゼナー)であり、英国法に基づく有限責任事業組合(LLP)として2002年7月12日に設立、ロンドン・キングス・ロード204番地ザ・ゴーモン2Aに本拠を置く。代表者はサチン・パテル(チーフオペレーティングオフィサー)。
| 発行体名称 | セントラル警備保障株式会社(CSP、9740) |
| 提出者 | ゼナー・アセット・マネジメント エルエルピー(Zennor Asset Management LLP) |
| 設立 | 2002年7月12日(英国LLP) |
| 本拠地 | 英国ロンドン、キングス・ロード204、ザ・ゴーモン、レベル2A |
| 事業内容 | 投資顧問業(投資一任契約に係る顧客資産の運用) |
| 保有目的 | 投資(主目的)。状況に応じて、運営及び資本の効率化に向けて、発行者の経営陣との意見交換や、重要提案行為等を行う場合がある |
| 重要提案行為等 | 現時点では該当なし(将来的実施を留保) |
| 保有株数 | 751,800株(普通株式のみ、潜在株券等ゼロ) |
| 発行済株式総数 | 14,816,692株(2025年10月10日現在) |
| 株券等保有割合 | 5.07% |
| 取得資金 | 2,138,007千円(全額顧客資金、自己資金・借入金ゼロ) |
| 担保契約等 | 該当なし |
本報告書の発行済株式等総数の基準日は「2025年10月10日現在」と記載されており、報告義務発生日(2026年4月20日)とは約6か月の乖離がある。これはCSPが株式分割等を実施した場合や臨時開示があった場合を除き、直近の基準日データが用いられた結果と解釈される。5.07%という保有割合は14,816,692株を分母として算出されており、以降に自社株買いや新株発行があった場合には実際の保有比率は若干異なる可能性がある点に留意が必要である。
| 年月日 | 数量(株) | 割合 | 市場区分 | 区分 | 単価(円) |
|---|---|---|---|---|---|
| 2026/2/19 | 3,500 | 0.02% | 市場内 | 取得 | — |
| 2026/2/19 | 3,300 | 0.02% | 市場外 | 取得 | 2,935 |
| 2026/2/26 | 10,800 | 0.07% | 市場内 | 取得 | — |
| 2026/2/26 | 9,700 | 0.07% | 市場外 | 取得 | 3,040 |
| 2026/3/4 | 5,000 | 0.03% | 市場内 | 取得 | — |
| 2026/3/4 | 11,800 | 0.08% | 市場外 | 取得 | 2,984 |
| 2026/3/10 | 5,000 | 0.03% | 市場内 | 取得 | — |
| 2026/3/10 | 4,200 | 0.03% | 市場外 | 取得 | 3,030 |
| 2026/4/3 | 5,800 | 0.04% | 市場内 | 取得 | — |
| 2026/4/3 | 5,400 | 0.04% | 市場外 | 取得 | 3,193 |
| 2026/4/6 | 3,500 | 0.02% | 市場内 | 取得 | — |
| 2026/4/6 | 8,100 | 0.05% | 市場外 | 取得 | 3,326 |
| 2026/4/15 | 31,000 | 0.21% | 市場内 | 取得 | — |
| 2026/4/15 | 36,300 | 0.24% | 市場外 | 取得 | 2,945 |
| 2026/4/16 | 10,300 | 0.07% | 市場内 | 取得 | — |
| 2026/4/16 | 21,400 | 0.14% | 市場外 | 取得 | 3,042 |
| 2026/4/20 | 5,300 | 0.04% | 市場内 | 取得 | — |
| 2026/4/20 | 9,900 | 0.07% | 市場外 | 取得 | 2,883 |
60日間のログに計18件(9営業日×市場内外ペア)の取得記録が存在する。全取得日において市場内取得と市場外取得が同一日に対で実施されており、これはゼナーが取引所立会いによるTOSTNET等の市場内取引と相対取引(市場外)を意図的に組み合わせた取得手法を用いていることを示す。市場外取得単価の推移を見ると、2,883円(4月20日)〜3,326円(4月6日)の間で変動しており、単純平均では約3,032円となる。4月15日に単日最大規模の67,300株(市場内31,000+市場外36,300)が取得されており、これはCSPの2026年2月期本決算(4月13日発表)を確認した翌々営業日であることが注目される。決算確認後に取得ペースを加速するというパターンは、ゼナーがファンダメンタルズの最終確認を経て意思決定を固めたことを示唆する。
60日間に記録された18件の取得数量合計は190,500株であり、総保有751,800株の約25.3%に相当する。残る561,300株(74.7%)は60日のウィンドウ外に取得されており、ゼナーが少なくとも数か月にわたってCSP株を段階的に積み上げてきた実態が浮かぶ。取得資金合計2,138,007千円を総保有751,800株で除した平均取得単価は約2,844円と試算され、4月20日時点の株価と比較すると複数の月次にわたって低い単価での取得が進んでいたことが推察される。
ゼナー・アセット・マネジメントは2002年設立の英国LLPであり、「日本株専門のファンド運用会社兼ファミリーオフィス」として自社を定義するロンドンのブティック型投資顧問会社である。現在11銘柄の日本株を保有し、過去最大の保有銘柄はNSユナイテッド海運であることが開示情報から確認できる。栗本鐵工所・ヒラノテクシード・エリアリンク・やまみ・セコムなど業種を横断した日本の上場企業への投資を行ってきており、保有目的欄に「状況に応じて重要提案行為等を行う場合がある」という文言を一貫して記載する手法が特徴的である。
ゼナーの投資スタイルは、エリオットのような公開書簡や株主提案による強硬なアクティビズムとは一線を画す「ソフト・アクティビズム」として業界内で認識されている。具体的には、まず非公開の対話(エンゲージメント)から関係を開始し、経営陣と資本効率化・ROE改善・株主還元強化について意見交換を行い、対話が機能する場合はその結果をアクティブ・オーナーシップ・レポートとして半期ごとに公表する。対話が奏功しない場合には、「より強硬なアクティビストが来る前に、私たちの提案を受け入れるべきだ」という暗示を利用した圧力をかけるという二段構えの戦術が、過去のセコムへのエンゲージメント書簡などの事例から読み取れる。サウスゲイト法律事務所が本件でも代理人を務めている点は、ゼナーが複数の日本株案件で同事務所を継続的に活用していることと整合する。
ゼナーが取得した銘柄の共通特徴として、業績の安定性・参入障壁の高さ・資本効率の改善余地・株主還元余力の存在が挙げられる。CSPへの参入もこのスクリーニング基準に合致しており、JR東日本との深い取引関係に基づく安定収益基盤がある一方で、ROEが低下傾向にあり株主還元政策の強化余地があるという構造的な特徴がゼナーの関与を引き寄せたと見るのが自然である。
セントラル警備保障(CSP)は1966年創業の警備保障会社であり、JR東日本を主要顧客とする鉄道・交通施設向けの常駐警備を主力に、機械警備・ホームセキュリティ・運輸警備・ビル管理を展開する総合セキュリティ企業である。JR東日本とその関係会社との取引が売上高の相当部分を占める準系列的な関係にあり、新幹線全区間の警乗、品川高輪ゲートウェイシティなどの大規模開発案件への警備サービス提供、AI画像解析技術を活用したドローン・カメラシステムの展開など、親会社グループの事業拡大に連動した成長機会を持つ。
2026年2月期本決算(4月13日発表)は売上高787.45億円(前期比10.3%増)と二桁成長を達成したが、人件費の増加と特別損失の影響で親会社株主帰属当期純利益は25.03億円(同22.5%減)と大幅な減益となった。2027年2月期の会社側予想は減収減益見通しであり、業績面での不透明感が残る。株価はゼナーの取得が集中した4月15〜16日時点で2,900円台〜3,040円前後(推定)で推移しており、時価総額は約426億円、ROEは低下傾向で8.1%前後(直近実績)、PBRは1.07倍前後という水準にある。
中期経営計画「想い2030〜連携して実現する〜」(2026年2月期〜2030年2月期)では、品川地区など大規模再開発への警備サービス提供とドローン・AI画像解析などの次世代警備サービスを収益柱として育てる方針を示している。しかし「増収効果を利益に直結できていない」背景として人件費の構造的上昇が続いており、ROEが一般的に望ましいとされる水準に届かない局面が継続しているという分析も市場関係者の間では共有されている。この「安定した事業基盤と持続的な資本効率の課題」の組み合わせが、ゼナーのスクリーニングに適合した主因と見るのが自然である。
ゼナー・アセット・マネジメントがCSPセントラル警備保障に対して市場内外を並行させた精緻な二段階取得で5.07%を積み上げ、重要提案行為の将来的実施を明示的に留保した事実は、JR東日本との準系列関係に守られた安定収益基盤を持ちながらも資本効率の改善が十分に進まないCSPという企業の構造的課題が、英国系ソフト・アクティビストの精査の俎上に上がったことを示している。ゼナーがアクティブ・オーナーシップ・レポートを半期ごとに公表し、「建設的な対話者」として自己規定しながら経営改善を促す手法は、エリオットのような強硬路線とは一線を画すが、対話が機能しなければ公開化へと移行する意思を持つという非対称な圧力構造を内包しており、CSP経営陣にとっては株主還元政策の強化と資本効率の改善目標の明確化を迫られる局面として機能すると見るのが自然だ。

