
SBIがアドバンスクリエイトを包囲するロジック
150円で取得されたA種種類株式
形式上の“無議決権株式”がもたらす支配の構造
2025年9月5日付で関東財務局に提出された大量保有報告書は、日本市場の見落とされた一つの構造的リスクを露呈している。
報告書によると、SBIホールディングス株式会社は、アドバンスクリエイト(以下、アドバンス)に対して以下の株式を保有している。
-
普通株式:6,500,000株(取得単価150円・第三者割当)
-
A種種類株式:13,500,000株(同上)
これら合わせて20,000,000株を保有し、報告書上の保有割合は28.71%に達する(※そのうち19.38%はA種株式で構成)
一見すると、A種種類株式は無議決権株式であり、支配力を伴わないように見える。
だが、アドバンスの定款には、「A種種類株式の取得と引換えに、普通株式を交付する」旨の記載があり、実質的にはいつでも議決権付き株式へ転換可能なオプションを保有しているのと同義だ。
これは、制度の枠内で巧妙に設計された静的支配構造であり、既存株主にとっての影響は決して軽視できない。
三者連合
SBIグループ×ライフネット生命による共同支配戦略
今回の報告書では、SBIホールディングスのほかに以下の共同保有者も記載されている。
-
株式会社SBI証券(保有株式:149,010株、0.21%)
-
ライフネット生命保険株式会社(保有株式:20,250,000株、29.07%)
3者を合計すると、アドバンスの発行済株式数(69,654,900株)に対して、保有比率は実に58.00%に達する
これは法的には過半数であり、経営支配が事実上可能なラインである。
特にライフネットは、SBIと明確な資本関係がある法人であり、実質的にはSBIグループによる統一的行動が可能な状態だ。
これは、“共同保有ではなく、共同支配”と読むべき構造である。
なぜA種株式なのか?
発行企業にとっての“制度的逃げ道”
注目すべきは、SBIとアドバンス間で締結された投資契約の中で、「SBIが2025年9月30日までは議決権20%を超える行為を行わない」との記載がある点だ
このような条項は、実質的には市場や株主に対しての“安心材料”として機能する。
しかし、A種株式が転換可能である以上、それはリミットが明確に設計された“仮面”にすぎない。
また、A種種類株式は分配可能額が一定ラインを超えた場合に金銭で取得請求も可能とされており、経済的な優先株に近い設計となっている。
これは、資本の回収性を担保しながら、議決権支配の余地を残す二重戦略の産物だ。
このスキームが許されている背景
制度の沈黙が呼び込むリスク
ここまでの一連の構造は、すべて法的には“正当”であり、制度に則ったものである。
-
A種株式を発行することに特段の制限はない
-
転換条項付きでも開示義務を果たしていれば問題なし
-
議決権ベースの保有割合が20%を超えなければ「形式的」な支配認定は回避可能
だが、実態は異なる。
-
転換すれば一気に過半数
-
ライフネットも同一グループ
-
取締役派遣や経営提案のハードルが下がる
つまりこれは、形式的規制が、実質的支配にブレーキをかけられない典型例であり、まさに“合法的支配”の完成形だ。
投資家としての視点
この動きをどう捉えるべきか?
投資家にとって、今回のSBIによるアドバンス包囲は、単なる「大型株主誕生」ではない。
以下の点を意識する必要がある。
観点 | 評価 |
---|---|
【支配構造】 | 実質的には議決権ベースで過半数支配が可能な状態 |
【企業の独立性】 | 投資契約書で“制限”されているが、あくまで期間限定・任意契約 |
【将来的なM&A】 | 転換により、完全子会社化も含めたストラクチャー変更が可能 |
【マーケットへの影響】 | 信用は上がる一方、少数株主の発言力は著しく低下する可能性あり |
「制度の許容」の限界を問う局面に
今回の大量保有報告書は、単なる「出資報告」にとどまらず、制度と実態の乖離を浮き彫りにした構造的事例として特筆すべき内容だった。
株式市場における「透明性」「対等性」「企業価値保全」といった原則は、こうした“制度の裏側”によって容易に骨抜きになり得る。
SBIの動きが正当であるからこそ、私たち投資家・アクティビストは制度の更新と市場の自浄作用をより強く求めなければならないだろう。