ビジョナル株式会社 2025年7月期決算

人材の需給をデータで制する”構造転換の真相

企業概要

ビジョナル株式会社(Visional Inc.)

  • 設立:2009年

  • 上場市場:東京証券取引所プライム市場

  • 所在地:東京都渋谷区

  • 代表取締役:南 壮一郎

  • 主要事業:転職プラットフォーム「BizReach」、採用管理SaaS「HRMOS」、データソリューション関連事業

  • 企業理念:「新しい可能性を、次々と。」──テクノロジーで働く社会の仕組みを再構築する。

人材需給のインフラ化を目指す新段階へ

2025年7月期決算で、ビジョナルは売上高8,016億円(前年比+21.2%)・営業利益2,144億円(+20.2%)・純利益1,595億円(+22.8%)と堅調な成長を示した。

従来の「人材マッチング」から脱却し、“需給を可視化する社会インフラ企業”への転換を明確にした内容だ。

BizReachの顧客数は18,800社を突破し、HRMOSは解約率0.58%という極めて高い維持率を達成。

契約負債(前受収益)の増加が営業CFを押し上げ、「先取り型キャッシュ構造」が完成した。

業績サマリー

成長と利益の両立を果たした一年

指標 2024年7月期 2025年7月期 前年比 評価
売上高 66,146百万円 80,161百万円 +21.2% BizReach・HRMOS両軸で拡大
売上総利益 60,428百万円 72,899百万円 +20.6% SaaS化進展で高利益構造維持
営業利益 17,837百万円 21,442百万円 +20.2% 成長投資と販管費増を吸収
経常利益 18,476百万円 22,715百万円 +22.9% 投資損益・金融収益が寄与
親会社純利益 12,990百万円 15,950百万円 +22.8% 内部留保拡充で安定成長
営業CF 18,369百万円 19,587百万円 +6.6% 契約負債増加で資金繰り改善

営業利益率は26.7%を維持。広告費・人件費増加にもかかわらず、CF体質の強化による実質的な安定成長を実現。


セグメント別分析

“BizReachの厚み”と“HRMOSの伸び”

事業区分 売上高 セグメント利益 利益率 増減 コメント
BizReach 68,610百万円 24,739百万円 36.0% +18.8% 主力事業。企業数18,800社、会員307万人。
HRMOS 5,212百万円 1,691百万円 32.4% +35.6% SaaS領域の伸長。解約率0.58%。
その他 3,139百万円 ▲1,605百万円 - - 海外展開・HRデータ分析投資が中心。

BizReachが「収益の屋台骨」である一方、HRMOSが成長エンジンとして明確に存在感を高めた。

データ・プロセス・評価を一体化する“HR統合プラットフォーム”への布石が見える。

キャッシュフロー構造

前受収益が生み出す自己完結モデル

区分 金額(百万円) 主因 評価
営業CF +19,587 税前利益22,700/契約負債+3,510 サブスク収益で安定創出
投資CF ▲3,658 子会社取得▲2,046/設備投資▲1,962 成長投資継続中
財務CF ▲1,247 債務返済・株主還元 安全性高く、保守的運営
現金残高 72,779 前期比+4.3% 手元流動性潤沢

契約負債の増加=顧客前払い金の増加。

これは「銀行に頼らず資金を先に回収するビジネスモデル」であり、ビジョナルがいかに高い信頼と継続性を獲得しているかを象徴している。

財務とガバナンス

攻めの成長と守りの設計思想

  • 純資産:67,759百万円(+15,370)

  • 自己資本比率:推定70%台

  • のれん:804百万円(軽量構造)

  • 投資有価証券:36百万円(限定的)

  • 継続企業の前提に関する注記:該当なし

外部借入に依存しない「有機的成長モデル」を堅持。

財務の保守性 × 成長の機動性という両輪を成立させている点は、

SaaS型企業として稀有な構造だ。

市場・投資家の視点

“評価倍率”では測れない企業

市場では高PER銘柄として注目を集めるが、

実態は「人材需給情報の社会インフラ企業」への変貌過程にある。

株価の評価軸は、利益水準ではなく、

「HRデータの独占度」と「企業情報の網羅性」に移りつつある。

人材資本の“地図”を描く企業

ビジョナルは「人を採用する会社」ではなく、「社会全体の労働構造を再設計する会社」へと進化している。

労働市場の可視化は、もはや経済基盤の一部であり、同社の事業はその中心に位置する。

“働く”を再定義する──それがビジョナルの決算に示された最終メッセージである。
企業と個人の関係をデータでつなぐこの構造は、
日本経済の「次のインフラ」として、静かに完成へと近づいている。

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