
ベルギー系バイオVC ニュートン・バイオキャピタル、ジェイファーマ(520A)の6.87%を上場日に開示──優先株転換+株式分割で形成した保有にロックアップが付帯、LAT1阻害剤の第3相試験を見据えた長期VC保有の構図
2026年3月26日、ベルギーのバイオ特化ベンチャーキャピタルファンドであるニュートン・バイオキャピタルⅠ プリカフ・プリヴェ・ドゥ・ドロワ・ベルジュ(Newton Biocapital I, pricaf privee de droit belge)は、関東財務局長宛に大量保有報告書を提出した。報告義務発生日は2026年3月25日──ジェイファーマ株式会社(証券コード520A)の東証グロース市場上場日と一致している。本件は上場日当日に報告義務が発生した典型的なVC保有の初回開示である。
| 発行済株式等総数(2026年3月25日時点) | 17,829,610株 |
| 保有株数 | 1,225,000株(普通株式のみ) |
| 株券等保有割合 | 6.87% |
| 保有目的 | 純投資 |
| 重要提案行為等 | なし |
| 取得資金合計 | 記載なし(現金取得ゼロ) |
| 取得経緯① | 2025年12月16日:定款の取得条項に基づき優先株式全株を取得するのと引換えに普通株245,000株を取得 |
| 取得経緯② | 2026年1月29日:株式分割(1:5)により980,000株を追加取得 |
| ロックアップ | SBI証券に対し2026年3月13日〜6月22日まで。ただし1,320円以上かつSBI証券経由の東証売却は除外 |
取得の構造は二段階である。第一段階として2025年12月16日、発行体の定款に定める取得条項に基づきジェイファーマが優先株式を全取得するのと引換えに、Newton Biocapital Iは普通株式245,000株を受け取った。これはIPO前の優先株式から普通株式への転換(いわゆる「コンバージョン」)に相当し、現金の追加支出は発生しない。第二段階として2026年1月29日に実施された株式分割(1株→5株)により、245,000株が1,225,000株に拡大した。本報告書の保有株数はすべてこの経緯によるものであり、市場内での現物取得は一切行われていない。
提出者はSBI証券(主幹事)に対し、ロックアップ期間(2026年3月13日〜6月22日)中、SBI証券の書面による事前同意なしに株式を売却等しない旨を合意している。ただし「売却価格が1,320円以上であって、SBI証券を通して行う東京証券取引所での売却等」は除外されており、公開価格880円の1.5倍水準(1,320円)に達した場合は自由に市場売却できる設計になっている。この構造は、VC保有者が上場後の株価上昇局面で早期に一部利益確定できる余地を残した標準的なIPOロックアップ設計である。
Newton Biocapital(ニュートン・バイオキャピタル)は2017年4月にベルギー・ブリュッセルで設立されたライフサイエンス特化のベンチャーキャピタルであり、欧州(ベルギー・オランダ・ドイツ・フランス)と日本において慢性疾患の予防・治療に関わるバイオテクノロジー・ライフサイエンス企業への投資を行う。代表のAlain Parthoens CEOが率いるチームは欧州と日本の両エコシステムに深いネットワークを持ち、アーリーステージからレイトステージまでのバイオ企業に対してリードインベスターとして関与するハンズオン型の投資スタイルを特徴とする。
同社は日本においても積極的な投資活動を展開しており、AMEDが認定するVCファンド8社のうちの1社であり、欧州と日本に拠点を持つ唯一のVC として日欧の創薬エコシステムの橋渡し機能を担う。2021年3月に日本法人を立ち上げて以来、日本でのスタートアップ発掘・投資活動を強化しており、将来的には日欧の投資割合を5対5にすることを目標としている 。投資実績はPitchBookベースで30社超に及び、PRISM BioLabやChordia Therapeuticsなど日本の創薬ベンチャーへの投資実績もある。今回のジェイファーマへの投資は、同社の日本投資戦略の延長線上に位置する。
ジェイファーマは、がん細胞に特異的に発現するアミノ酸トランスポーター「LAT1(SLCトランスポーターファミリー)」を標的とした世界初(ファースト・イン・クラス)の新薬開発を進める創薬ベンチャーである。主力パイプラインの「ナンブランラト(Nanvuranlat)」は胆道がんを対象としたグローバル第3相試験の準備段階にあり、「JPH034」は米国で第1相試験入りを控えている。2026年3月25日に東証グロース市場に上場し、公開価格は880円、想定時価総額は164億円、主幹事はSBI証券であった。
財務面では5期にわたり事業収益(売上高)はゼロという典型的な創薬ステージの企業であり、研究開発費と一般管理費により継続的な赤字が続いている。2025年3月期の経常損失は約15.3億円、当期純損失は約15億円であり、2026年3月期第3四半期累計時点でも損失が継続していた。調達資金は臨床試験費用に充当される計画であり、今後の試験進捗が株価の重要な材料となる構造にある。
Newton Biocapitalの投資判断の軸は、LAT1という標的の科学的優位性と胆道がんという希少難治性がんに対するアンメット・メディカル・ニーズの大きさにあると推察される。同社はアーリーステージのバイオ企業に対してリードインベスターとして関与するハンズオン型の投資を行うVCであり、ジェイファーマへの優先株投資はIPO前の未上場段階からの関与を示している。
| 年月日 | 種類 | 数量 | 割合 | 区分 | 内容 |
|---|---|---|---|---|---|
| 2026年1月29日 | 普通株式 | 980,000 | 5.50% | 市場外 | 株式分割による増(1:5) |
60日間ログに記載されているのは2026年1月29日の株式分割による980,000株の増加のみである。もともとの245,000株は2025年12月16日の優先株転換によるものであり、こちらは60日間の対象期間外となる。株式分割前の保有245,000株(分割後換算1,225,000株)は現金出資ゼロによる取得であり、ジェイファーマへの当初投資時点で支払った優先株取得代金が実質的な取得コストとなる。
2017年設立・バイオVC
代表:Alain Parthoens
2026年1月:1:5分割
取得資金ゼロ
東証グロース
2026年3月25日上場
法律事務所窓口はベーカー&マッケンジー(アークヒルズ仙石山森タワー)の渡邊大貴弁護士であり、外資系バイオVC案件において同事務所が起用されるパターンは日本のIPO実務において見受けられる。ロックアップ相手方はSBI証券(主幹事)であり、IPO引受業務の一環として大株主とのロックアップ契約が締結されている。
Newton Biocapital Iによる6.87%の保有は、上場時における既存VC株主の持分として通常の範疇にある。ロックアップ期間(〜2026年6月22日)中は1,320円(公開価格880円の1.5倍)未満での売却は原則制限されており、ロックアップ解除後の需給動向が短期的な株価変動要因となる。一方で創薬VCとしての性質上、Newton Biocapitalはパイプラインの臨床進展を見届けるまで保有を継続する可能性も高く、単純な短期売り圧力として評価することは必ずしも適切ではない。
本件は、欧州と日本のバイオエコシステムの橋渡しを標榜するベルギー系VCが、LAT1という科学的に有望な標的を持つ日本の創薬ベンチャーにIPO前から優先株投資を行い、転換・分割を経て上場日に6.87%の大量保有者として開示された典型的なVC保有案件である。取得コストはゼロであり、保有の実質的な価値はIPO前に拠出した優先株取得代金であって、上場という形での部分的な出口実現を経た段階にある。ロックアップ解除後の行動は臨床試験の進捗とファンド償還スケジュールという二つの変数によって規定されるが、Newton Biocapitalのハンズオン型投資哲学と創薬VCとしての投資期間の長さを踏まえれば、ロックアップ解除後の即時全量売却よりも、主要な試験マイルストーンを見届けながら段階的にポジションを整理していくシナリオの方が蓋然性が高いと見るのが自然だ。

