
構造改革とバリュー発掘を睨んだ静かな提起
2025年6月9日、Brand New Retail Initiative Fund投資事業有限責任組合(以下、BNRIファンド)は、株式会社マツモト(証券コード:7901)の株式129,400株を取得し、発行済株式総数に対する保有比率が11.31%に達したことを大量保有報告書により開示した。
BNRIファンドは2022年設立の比較的新しいファンドであり、無限責任組合員(GP)はイノー・アソシエイツ株式会社、代表者は池浩太郎氏。
地方企業や小型上場企業へのハンズオン型支援を特徴とする投資戦略をとっており、本件はその戦略の一環として位置付けられる。
マツモトとは?
中堅文具・事務用品メーカーの地場成長企業
マツモトは東京証券取引所に上場する文具・ファイル用品メーカーであり、地方都市圏を中心に文具・事務用品の設計・製造・販売を展開してきた。
大量生産によらず、BtoBニーズに即した機能性商品を武器に、独自のポジションを維持している。
一方で、近年は文具需要の縮小や販路の集中により業績は横ばい傾向にあり、資本効率や市場評価(PBR・ROE)といった観点では改善余地が残ると見られていた。
取得構造と目的
ファンド型資本参加の典型
BNRIファンドの保有目的は「純投資」とされているが、次のような特徴を持つ:
- 取得日は2025年6月3日、株式数は73,400株(市場外取引)、単価808円
- 全体で129,400株、持分比率11.31%を一気に構築
- 資金はすべて自己資金(約5,930万円)で調達されており、ファンドとしての独立した投資判断である
これらは、上場企業に対する中長期的なエンゲージメント型出資として一般的な構造であり、MBOやTOBを伴わない“ソフト型再編の布石”とも読み取れる。
今後の注目点
- 株主提案の可能性(IR強化、取締役構成見直し、資本政策等)
- BNRIファンドによるさらなる買い増しや、業務提携の可視化
- 自社株買い、増配、資産効率向上策の実施有無
- 同様の地方企業への投資展開(ポートフォリオ戦略の波及)
小型株市場における「資本の手触り」
今回のBNRIファンドによるマツモト株式11.31%取得は、東証上場企業の中でも特に「構造的放置」されてきた小型銘柄に対する、資本の再評価の兆しである。
新興ファンドによる地場企業への選別的関与は、上場維持の意義や経営の“独立性と開示責任”というテーマを浮き彫りにしつつある。
マツモトがその問いにどう応えるのか──その次のアクションが、ローカル企業にとっての資本市場との距離感を再定義する契機となる可能性がある。