
米国国際事業が重荷、国内開発型ビジネスの利益貢献が急拡大した構造転換の年
| 指標 | 第74期(百万円) | 第75期(百万円) | 増減額 | 増減率 |
|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 4,058,583 | 4,197,922 | +139,339 | +3.4% |
| 営業利益 | 331,366 | 341,402 | +10,036 | +3.0% |
| 営業利益率 | 8.2% | 8.1% | ▲0.1pt | — |
| 経常利益 | 301,627 | 327,800 | +26,172 | +8.7% |
| 純利益 | 217,705 | 232,095 | +14,390 | +6.6% |
| 1株当たり純利益(円) | 335.95 | 358.07 | +22.12 | +6.6% |
| ROE | 11.71% | 11.32% | ▲0.39pt | — |
| 自己資本比率 | 40.80% | 42.73% | +1.93pt | — |
| 1株当たり配当金(円) | 135.00 | 144.00 | +9.00 | +6.7% |
第75期は、第6次中期経営計画(2023〜2025年度)の最終年度として売上高・利益ともに6期連続の最高益更新を達成した。売上高4兆1,979億円は前期比3.4%増、営業利益3,414億円は同3.0%増となり、会社側が2025年9月に上方修正した業績目標(売上4兆3,310億円・営業利益3,400億円)のうち営業利益はわずかに超過した一方、売上高は目標を1,331億円下回った。目標差異の主因は米国戸建住宅事業の需要鈍化と棚卸資産評価損の計上であり、国内事業は計画以上の進捗を見せた。
経常利益の伸び率(+8.7%)が営業利益(+3.0%)を大幅に上回った背景には、持分法投資利益の計上(特定目的会社保有不動産の引渡し完了による)がある。一方、純利益の伸び(+6.6%)が経常利益(+8.7%)を下回ったのは、政策保有株式の売却による投資有価証券売却益が前期から11,899百万円減少した影響を、M.D.C. Holdings買収関連費用の反動減(18,878百万円の特別損失減)が一部相殺したためである。
積水ハウスのビジネスモデルは「請負型」「ストック型」「開発型」の3分類に整理できる。第75期の最大の特徴は、開発型ビジネス(仲介・不動産・マンション・都市再開発)の営業利益が94,970百万円(前期比35.1%増)と突出した伸びを示し、請負型やストック型の成長を大きく凌駕した点にある。
都市再開発事業の営業利益が45,992百万円と前期比72.5%増加し、物件売却の進捗超過と持分法投資利益が結果を押し上げた。マンション事業も武蔵小杉・福岡中央区などの大型物件引渡しが計画通りに進み23.3%増益となった。この開発型ビジネスの利益急増が、国際事業(米国)の大幅減益という逆風を吸収する役割を果たした構図が第75期の決算の骨格である。
①棚卸資産(販売用不動産):国際事業での棚卸資産評価損計上が利益を押し下げた。国内では販売用不動産が増加(流動資産増加の主因)しており、開発型ビジネスの拡大に伴う在庫リスクの点から注視が必要。②売上債権:総資産が5兆666億円に拡大するなか、流動資産は前期比5.3%増。売上高増加(+3.4%)との乖離は限定的。③営業CF:216,325百万円と前期の62,885百万円から153,440百万円増加し、2.4倍超の大幅改善。前期は米国M.D.C.買収に伴う棚卸資産の拡大でCFが圧迫されていたため、反動増の性格が強い。④特別利益依存:政策保有株式の売却益が前期比11,899百万円減少。段階的な政策保有株削減方針のもと、この収益源は将来的に縮小する。⑤有利子負債:米国M.D.C.買収資金のパーマネント化(2025年2月完了)により、NASH FINANCING, LLCの借入残高が536,980百万円。財務特約(純資産ゼロ未満・2期連続純損失不可)が設定されており、米国事業の収益動向がこの財務コベナンツに与える影響は継続的な注視を要する。
| CF区分 | 第74期(百万円) | 第75期(百万円) | 増減 |
|---|---|---|---|
| 営業活動によるCF | 62,885 | 216,325 | +153,440 |
| 投資活動によるCF | △697,687 | △73,172 | +624,514 |
| 財務活動によるCF | 720,967 | △93,255 | ▲814,222 |
| フリーCF(営業+投資) | ▲634,802 | +143,153 | +777,955 |
| 期末現金残高 | 390,307 | 434,925 | +44,618 |
CFの構造は前期から劇的に変化した。前期は米国M.D.C. Holdings買収(約6,000億円規模)に伴う投資CFの大幅流出と財務CF(借入等)の大幅流入という非常時の構造だったが、今期はフリーCF+1,432億円という正常化した姿に戻っている。営業CFが2,163億円と4倍近い大幅改善を達成したのは、税金等調整前純利益の3,387億円計上に加え、前期に嵩んだ棚卸資産増加の反動が生じたためである。投資CFの流出が▲732億円(前期▲6,977億円)と急減したのも、大型買収が一巡した結果である。財務CFは▲933億円となったが、これは主に配当金支払927億円(前期比97億円増)によるものであり、借入の大規模な返済ではない。
2026年3月に発表した第7次中期経営計画では「国内の安定成長と海外の積極的成長」から「EPS・配当の継続的成長」へと経営指標の重点をシフトさせている。EPSは第75期に358.07円(目標357.97円)と目標を達成したが、ROEは11.32%(目標11.9%)と若干未達となった。第7次ではROEの改善と配当の継続増配が主要KPIとなると見られ、買収後の米国事業(SEKISUI HOUSE U.S., Inc.として組織統合完了)の収益正常化が最大の前提条件である。
米国借入子会社NASH FINANCING, LLCの借入残高5,370億円に対し「純資産ゼロ未満不可」「2期連続純損失不可」という財務特約が付されている。現状では同社の純資産はプラスを維持していると解釈されるが、米国住宅市場の回復が遅延し評価損計上が続いた場合、コベナンツへの接触リスクが生じる可能性がある。この点については有価証券報告書に正式記載された公開リスクであり、投資判断における重要な論点として位置づけるべきである。
積水ハウスの第75期決算は、6期連続最高益という数字の裏側に「国内開発型ビジネスの利益急増が米国事業の半減益を補填した」という構造転換の実態が埋め込まれており、この利益の質の変化を正確に読み解くことが重要である。都市再開発事業が前期比72.5%増益という突出した結果を示したことは、東京・名古屋・大阪・福岡の中心地に集中展開するプライスリーダー戦略の成熟を示す一方で、物件売却のタイミングに依存する一時的な性格も含む。第7次中期経営計画の成否は、米国SEKISUI HOUSE U.S.の棚卸資産評価損から正常収益フェーズへの移行速度と、国内では開発型ビジネスの利益水準を持続できるパイプラインの厚みにかかっており、5,370億円の米国借入に設定されたコベナンツという財務的な境界線が投資家の視野に入り始めたことを、過度な懸念なく淡々と注視することが適切と見るのが自然だ。

